もはや回復は望めない対米輸出、
中国への輸出でその穴埋めは可能か?


2009年8月の日本の輸出は、4.51兆円であった。

1990年代からの輸出額の推移を見ると、【図表1】に示すとおりだ。90年代の半ばから月額4兆円程度の水準で推移していたが、2002年ごろから顕著に増加し、07年から08年にかけてピークに達し、月額7兆円を超える水準になった。


ところが、世界経済危機の影響で08年10月に一挙に落ち込み、09年1月には3.5兆円まで減少した。わずか数ヶ月の間に輸出額が半分になると いうような急激な落ち込みは、これまで1度も経験したことのない異常なものであった。急激な輸出の減少は、それまで輸出で景気回復をしてきた日本経済に、 大きな打撃を与えた。

その後輸出は回復に向かい、今年8月までに1月の水準から29.6%増加した。1月からの増加額1.03兆円は、ピークであった08年3月の 7.68兆円からボトムであった09年1月までの減少額4.2兆円の24.5%に当たる。つまり、7ヶ月間かけて減少額の約4分の1を取り戻したわけであ る。

ただし、本格的な回復にはほど遠く、現状が依然として低い水準にあることは間違いない。8月の対前年比はマイナス36%であり、ピークであった 08年3月に比べると、41.3%少なくなっている。ただし、「ピークの水準まで回復しない」というよりは、「これまで数年間の増加が異常だったのであ り、それが正常な水準に戻った」と言うべきだろう。実際、【図表1】を見ても、02年から08年ごろまでの期間が長期的な傾向から外れている。そして、現 在の水準は、今回の輸出増加が始まる前の02年ごろの水準とほぼ同じものだ。「02年から数年間の異常な時期を経て、経済は元の状態に戻った」と考えるべ きだろう。

輸出の動向は、日本経済の今後を考える上で重要な意味を持っている。そこで、現在の状況をいま少し詳しく見ておくことにしよう。

対米輸出は15%回復
対中輸出はほぼ半分回復


日本の輸出動向を輸出先別に見ると、つぎのとおりだ。

まず、対アメリカ輸出は、8月が8840億円である。対前年比はマイナス27.6%であり、ピークであった06年9月に比べると、54.6%少なくなっている。

対米輸出も、08年秋から冬にかけて急激に落ち込んだことは同じだが、減少はすでに07年から生じていた。また、ボトムは09年2月で、5570億円であったが、8月の数字はそれから28.1%の増加になっている。

2月からの増加額1565億円は、ピークであった06年9月の1.57兆円からボトムまでの減少額約1兆円の15.4%でしかない。つまり、対米輸出は、輸出総額ほどには回復していないことになる。

また、現在の水準は、91年ごろに比べても、2割以上低い水準になっている(【図表2】参照)。これは、実は80年代初めの水準なのである。80年代初めとは、日本車の対米進出が軌道に乗り、日米間で貿易摩擦が大きな政治問題となっていた時代だ。


つぎに、対中国輸出を見よう。8月の輸出額は7000億円、対前年比はマイナス27.6%、ピークであった08年7月に比べると、31.0%の減少となっている。

アメリカの場合との違いは、90年代の末から顕著な増加傾向にあったことだ(【図表3】参照)。しかも、対米輸出のように金融危機の始まった07年にはまだ減少に転じず、08年夏ごろまでは概して増加基調にあった。08年夏ごろの数字は、02年の数字の3倍程度になった。

それが08年11月から急激に落ち込んで、09年1月には5110億円になった。8月の数字はそれから73%の増加になっている。

1月から8月までの増加額3730億円は、ピークからボトムまでの減少額7713億円の48.3%である。つまり、対中国輸出は、8月までの段階で、落ち込みの半分近くを取り戻したことになる。

なお、1月の水準は02年ごろとほぼ同じ水準であり、8月の水準は05年ごろと同じ水準だ。

対米輸出は回復しないだろう


対米輸出は、円ドルレートによって大きな影響を受けている。実際、90年代後半に輸出が前半より増えたのは、為替レートが円安になったからである。また、05年ごろからの増加も、アメリカの消費拡大とともに、実質為替レートが円安になったことが重要な要因になっている。

ところが、欧米諸国が金利を下げてしまったため、為替レートがかつてのような円安になることは、当面の間はないと考えられる。またアメリカの消費 バブルは住宅価格バブルに誘発されたものであったため、これが再発することも考えられない。だとすれば、対米輸出が07年ごろの水準に回復することは期待 できないだろう。

これまでの推移を見ても、すでに述べたように、8月までの段階でピークからの落ち込みの15%程度を取り戻したにすぎない。したがって、ピーク時に比べて半分以上落ち込んだ水準が、今後も継続するものと思われる。

これは、過去の推移と比べても、かなり低い水準である。すでに述べたように、現在の水準は、91年ごろと比べても2割程度低く、80年代初めの水準だ。

アメリカへの輸出がこのように低い水準に落ち込んでしまい、しかもそれが容易に回復しないと考えられることは、日本の輸出産業にとって本質的な問 題を提起している。とくに自動車産業は、国内生産の半分近くを輸出しており、しかもその主要な市場がアメリカであるため、きわめて深刻な問題に直面してい る。

対中国輸出は対米需要減を補えるか?


対中国輸出の回復は、中国政府による景気対策の効果であると言われることが多い。もしそうなら、日本の対中国輸出には構造変化が起こっているはずである。これを見るために、品目別の輸出構成比を計算して見よう。いくつかの時点について比率を示すと、【図表4】の上段のようになる。

これを見る限り、品目別の構成比に大きな変化が生じているとは言えない。自動車の比率が若干上昇しているが、あまり大きな変化ではない。

つまり、中間財輸出という従来のパターンは変わっていないと言える。したがって、最近時点における日本の対中輸出の回復は、中国政府の内需拡大策の影響というよりは、中国の輸出が回復して輸入が増加したためである面のほうが強いと考えられる。

異なる時点間の増加率を見ると、【図表4】の下段のようになる。ボトムであった09年1月からの増加率は、自動車関係が高い数字を示している。そ の結果、08年8月と09年8月を比べると、多くの項目で7割程度の水準に落ちているのに対して、自動車は増えている。これには、中国政府の景気刺激策に よる影響もあるのだろうが、より大きくは、中国のモータリゼーションという長期的な傾向によるものだろう。

さらに重要なのは、自動車が日本の対中輸出総額に占める比率が2~3%に過ぎず、総額に影響するような数字とは言えないことだ。

アメリカをはじめとする先進国において自動車の需要が減ってしまったことの影響を、中国がカバーできるだろうか?

上で見た数字から明らかなように、規模からいってほとんど問題にならない。【図表5】に示すように、日本の自動車輸出のうち、対中国は対米の10分の1程度の規模でしかないのである。

中国国内の1月の自動車販売は79万台となり、アメリカの販売台数67万を超え、世界最大の自動車市場となった。4月には、115万台になった。し かし、日本からの輸出はそれほど多くはないのだ(8月の日本からの自動車輸出は、約17万台)。その大きな理由は、日本車が中国での需要にはマッチしない ことだ。中国で成長しつつある中間層は、「ボリュームゾーン」と言われるが、所得水準で言えば、日本における生活保護世帯程度の水準である。彼らが、先進 国と同じような自動車を購入するようになるとは考えにくい。

機械などの資本財や部品などの中間財の輸出は、賃金率の違いを反映した国際分業の姿としては、自然なものである。それに対して、賃金率の高い日本 が所得の低い新興国に最終財を供給するという構造は想像しにくい。したがって、対中輸出の品目別構成が、これまでのものから大きく変化することは考えにく い。

以上の分析を参照すれば、日本の輸出の今後について、つぎのようなことが言える。

(1)日本の輸出産業が需要の急減という深刻な問題に直面していることは間違いないが、問題の程度は産業によって差がある。つまり、製造業や輸出産業を一概に論じることはできず、産業ごとの問題を分析する必要がある。

(2)最も深刻な問題に直面しているのは、自動車産業だ。国内生産のほぼ半分を外需に頼り、その大部分をアメリカ市場に頼っていたが、アメリカの消 費支出が急減し、異常な円安状態が是正されたことによって、需要が急減した。しかも、アメリカの消費や為替レートがかつての状態に戻るとは考えられないの で、アメリカでの販売がかつてのレベルに回復するとは考えられない。

(3)自動車産業に関連する産業も、自動車生産の減少によって大きな影響を受ける。鉄鋼産業は、その代表的なものである。

(4)工作機械などの資本財や部品などの中間財を生産する産業は、中国への輸出が今後も増加すると考えられるため、自動車ほどの影響は受けないだろ う。ただし、今後の需要がどのように推移するかは、中国の輸出産業の動向にかかっており、不確実性が高い。ピーク時に比べて3割ほど低い水準が続く可能性 は高い。